たまにはパパだって、絵本について考えてみましょう。

[ チルドリン vol.07 2006年発行より ]

月に一度、絵本を買ってお家に帰る。
そんな習慣のあるパパがもっと増えたらいいですね。

ついついママに頼りがちな子どもの絵本選びと読み聞かせ。
参加型絵本情報サイト「絵本ナビ」の事務局長を務める金柿秀幸さんに、「パパが考える、絵本と子育て」についてそのポイントを伺いました。

子どもたちの大好きな絵本。仕事が忙 しいという理由で、絵本に関してはママにおまかせしているパパは多いのではないでしょうか。今回は、そんなパパに絵本の魅力をもっと知ってもらうべく、絵 本選びが100倍楽しくなるウェブサイト「絵本ナビ」をご紹介します。5歳の娘さんのパパであり、絵本ナビの事務局長を務める金柿秀幸さんに、絵本をツー ルとした子育てにまつわるお話を伺いました。
「僕が絵本ナビを始めたきっかけは、娘の誕生にあります。父親になって、とにかく娘とコミュニケーションがとりたくて最初は”パパでちゅよ~”なんて語り かけをしていましたが、すぐにネタ切れ。そこで絵本の読み聞かせを始めました。子どもが喜ぶ反応を見ると楽しくなり、自分でも絵本を買ってみたいと思うよ うに。けれども本屋さんに足を運ぶと、膨大な数の絵本に愕然としてしまったのです。”みんなはどうやって絵本を選んでいるのだろう”と、率直な疑問が生ま れました」

その後、絵本の選び方を知りたくなった金柿さんは、知り合いのママたちにリサーチを始めます。すると、どのママも参考にしているのは幼稚園のお友達ママや親 戚の先輩ママなど人づての情報がほとんど。試しにそれぞれのママたちにおすすめ絵本を5冊選んで感想を書いてもらうと、子育ての発見が詰まった面白いコメ ントばかりが集まりました。それを印刷してママたちに配ると、なんと大好評。絵本の選び方がよくわからなかったのはパパだけでなく、ママたちも同じだった ようです。こういった背景から、金柿さんは”絵本の口コミサイト”として絵本ナビをスタートさせました。実際に絵本を読んだ全国のパパやママが書いた感想 をそのまま掲載しているので、知りたい情報はリアルに届いた声ばかり。その身近な視線で切り取られた絵本のウェブサイトに人が集まるのは、そう時間がかか ることではありませんでした。

実は、絵本ナビを立ち上げる前はバリバリの仕事人間だった金柿さん。銀行系シンクタンクのシステムエンジニアとして勤務し、朝早くから深夜までがむしゃらに働いていたのだそうです。そんな仕事漬けの生活を送っていたある日、奥様の妊娠が判明しました。
「妊娠を聞いたとき、嬉しい!という気持ちと同時に、5年後10年後の家庭を思い浮かべました。すると、子どもと上手にコミュ二ケーションがとれていない 自分の姿が一瞬にして想像できたのです(笑)。当時、会社からは仕事を評価してもらっていたけれど、自分にとっての幸せとはなんだろうと考えた結果、会社 を辞めて独立する決断をしました」

会社員のツラさを自ら経験してきた金柿さんだからこそ、働くパパたちに向けて、絵本を通しての子育て支援を強く提案しています。そのひとつが、毎月20日 にパパのオフィスに絵本を届ける『月イチ土産絵本』というキャンペーン。絵本ナビでは、子どもの年齢にあわせて厳選した絵本を毎月1冊ずつ届ける『絵本ク ラブ』という定期購読システムを行っていますが、『月イチ土産絵本』はこれのパパ版というわけです。
「実際会社で仕事をしていると、一度申し込めば決まった日に勝手に届くというシステムはすごく便利。”絵本の日”ができたら、その日だけは早く家に帰るよ うにしてみてください。決して仕事の手を抜くという意味ではなく、メリハリが大切ということです。お父さんが新しい絵本をお土産に持って帰れば、子どもは 必ず喜びます。絵本を手にした子どもは”パパ、読んでー!”と言い、親子の時間も自然と生まれるはずですよ。お母さんに言われてやるのではなく、ぜひお父 さんが自分で申し込んでみてくださいね」と金柿さん。この習慣がパパたちの間でムーブメントになることを、金柿さんは強く望んでいます。

では、どうやって絵本を読んであげたらいいの? そんなパパやママからの質問も金柿さんの元によく寄せられるそうです。
「義務や教育と考えて絵本を読み聞か せると、子どもは面白くありません。絵本をコミュニケーションツールにして、親子が楽しい時間を持つということが一番大切。そのためには、まずお父さん自 身が楽しんでください。子どものペースで絵本を読めば、途中で話が弾んだり、突然終わったり、ページが戻ったりしたっていいんです。声色を変えて読んだ り、問いかけたりしながら絵本を読めば、自然と会話も生まれますよ」

また、ママとパパでは絵本の選び方に違いがあるそうです。「お母さんは子どもに”やさしい子になってほしい”とか”数を覚えてほしい”とか、効果が期待で きる安定した絵本を求める傾向があります。けれど、絵本の楽しさはそれだけではないんですよね。そこに、怪獣やおばけ、化学やうんちの話など、お父さんが 選んだユニークな絵本が加わるとバランスがとれて面白い。家の本棚にバリエーションがつき、子どもの感性にも揺さぶりをかけるのです」と金柿パパは教えてくれました。

子育てにおいてパパの役割は、なにも休日に遊園地に行ったり、車で山や海に連れていったりするイベント的なことだけではありません。家でちょっと時間がで きたら、膝に子どもを乗せて絵本を開いてみてください。どんな絵本でも、どんな読み方でもかまいません。いっしょに笑ったり、怖くなったり、泣いた り……1冊の絵本が与えてくれる幸せな時間の積み重ねは、子どもにとってもパパにとっても、将来ほかの何にも変えがたい貴重な思い出となるでしょ う。子どもに絵本を読んであげられる時間は、一生のうちの限られた期間しかないのですから。

【profile】
金柿秀幸 (かながき・ひでゆき)
1968年生まれ、東京都出身。株式会社絵本ナビ代表取締役社長。大学卒業後、銀行系シンクタンクである富士総合研究所(現みずほ情報総研)勤務を経て、 2001年、株式会社絵本ナビの前身となるゴールデン・サンを設立。翌年、参加型絵本情報サイト「絵本ナビ」をオープン。著書に「幸せの絵本1・2」(ソフトバンク・パブリッシング)がある。

[ チルドリン vol.07 2006年発行より ]