近ごろ子どもたちが外で遊ぶ声を耳にしましたか?

[ チルドリン vol.05 2006年04月発行より ]

「自分の責任で自由に遊ぶ」
このシンプルな約束事をモットーに活動を続ける「日本冒険遊び場づくり協会」の取材を通じて教えられた事がありました。
それは私たち大人のできる事は、子どもがそもそももっている「遊ぶ力」を信じ、見守る事が大切だということを。

遊ぶことは、子どもの成長に欠かせないことです。「遊びたい」という子どもの欲求は、いつの時代も変わりません。しかし、子どもの遊ぶ環境や質は時代とともに刻々と変化しています。今回取材したNPO法人「日本冒険遊び場づくり協会」は「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーに、子どもたちの遊び場づくりを応援してきました。

1943年にデンマークで誕生した「廃材遊び場」は、イギリス、ドイツ、スイスなどヨーロッパ各地に広がり、日本へも1970年代に冒険遊び場が伝わりました。外で元気に遊ぶ子どもの姿が減りはじめ、遊び場を確保する動きが出てきた頃と重なります。最初の取り組みは地域の住民が区から緑道予定地を借りて、夏休み前後の3ヶ月間、イベント的に始めたものでした。1979年の国際児童年に、住民と行政とが手を組んで、世田谷区の羽根木公園の一角がプレーパーク(冒険遊び場)になりました。整備されていないでこぼこの地面に、手作りの道具を置き自由に遊べる場所をつくったのです。そのような子どものためのプレーパークをつくる活動はあちこちで芽を出し、羽根木プレーパーク設立20周年の98年、全国集会を初めて開くと、400人近くの人が集合。そこで、全国組織を立ち上げる必要性を感じ、IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部のなかに「冒険遊び場情報室」が開設され、2003年に、「日本冒険遊び場づくり協会」というNPO法人として独立しました。

「遊び場がない」というのは「公園が不足している」ということではありませんでした。活動が始まった当初は、子どもが遊べる空き地や路地がなくなってきたという時代状況がありましたが、むしろ「現在は子どもの遊びを受け止める地域の許容量が減っていることが問題」になっています。

「今の大人が子どもだった頃と環境がそれほど大きく変わっていない地方では、自分たちも同じ所で遊んでいたのだから、今の子どもでも遊べるだろうと大人は考えがちです。しかし、子どもたちを見守る目というのでしょうか、大人が子どものやることを暖かく見守る力というものがなくなってきている」と事務局長の古賀久貴さんは感じています。

子どもが遊ぶと、時にはうるさく、汚く、そして危険もつきまといます。しかし、そのなかで失敗をしたり、自分の興味を発見したり、人の嫌がることを発見したりもします。子どもたちが自由に遊ぶためには、大人の見守るチカラ、つまり、「地域の懐の深さ」が問われているともいえます。

「みなさんの暮らすご近所にも、子どもが遊んでない公園を見かけると思います。子どもたちがそこで遊ぶためには、場所だけを用意するのではなく、人がいるということが大事なことです。プレーパークでは、プレーリーダーという大人を常駐させる方法をとっています。プレーリーダーは子どもを「遊ばせる」わけではありません。遊びを選ぶのは子どもたちだからです。プレーリーダーは、子どもが遊べる状況をつくり、子どもの遊びを阻むものを取り除き、子どもを守るためにいるのです」と副代表の関戸まゆみさんは考えています。

これまでにも、野外活動や集団活動を指導するものなど、子どもに関する活動はいろいろありましたが、従来の活動と冒険遊び場づくりの活動の違いは、次のように表せます。

「今までの活動は、子どもが中心に置かれていて、周りを大人が取り囲んでいる、大人が子どもに向かって手を差し伸べている活動。子どもに対する,アクティビティや、プログラムの提供だ。冒険遊び場づくりは、子どもが中心にいて、周りに大人がいるというのは同じである。ただ、大人の有り様が違う。子どもが自由に遊べるように、大人が外側に向かって、社会に向かって働きかけているのが冒険遊び場だ」

そこで日本冒険遊び場づくり協会は、(1)子どもの生活圏にあり、(2)いつでも遊べて、(3)誰でも遊べる、(4)自然豊かな野外環境が、(5)作り替えができるという、5つ要素を重視しています。そして、これらの要素を確保しようとすると、必然的に地域の人と関わらざるを得ない状況になるのです。近隣の人に「うるさい!」と言われることもあるでしょう。その事実と向き合い、どう折り合いをつけて子どもの遊び場を確保していくか。日本冒険遊び場づくり協会では、そういった課題を解決していくプロセスも重要なことだと考えています。

「遊びというのは、子どものやりたいことそのものです。子どもの暮らしそのものが遊びです。だとしたら、特別なプレーパークだけで遊ぶというのは、ちょっとイビツな状況かもしれません。究極的に目指すことは街全体が、子どもが遊べる状況になること。子どもたちが暮らしのなかで常に遊び、生き生きできるのが重要です。プレーパークは、それを伝えるためのきっかけに過ぎないと思っています」と古賀さんは考えています。

世田谷の羽根木プレーパークの近所で、自身も子育てをしていた関戸さんは、プレーパークの効果を実感していました。

「羽根木プレーパークは公園の一角にあるので、いろんな人が通りすぎて、来るつもりじゃない人が立ち寄るということがよくあります。年齢層も様々で、乳幼児から高齢の方がいました。聞くつもりのない話が聞こえてきたり、けんかしてる子どもたちがいたり。ほんとに雑多な空間で、ここは面白いと思いました。人生もそうだと思うんですけど、プレーパークでは思いがけない出来事がたくさん起きました。遊びがイベント化し特別なものだと考えられていますが、日常生活の中で、街の中で遊ぶ大切さを見直す必要さを感じています。今は、知らない人としゃべりづらい社会になったこともあり、今後ますますプレーパークのような存在が子どもの成長に有効になると思います」

代表の大村虔一さんが訳したレディ・アレンの著書『都市の遊び場』には、「子どもは全てのものを授かって生まれてくる。大人ができるのは、その子が育っていくのを、いかに邪魔せずに支えられるかということだ」とあるそうです。 子どもたち自身がもつ遊ぶ力は、決して昔と変わっていないはずです。事実、取材当日、子どもたちは土に水を撒き、泥だらけになり、泣いたり、駆け回ったりと力いっぱいに遊んでいました。その子どもたちの姿に、暗い影はまったく見当たりません。その真っすぐな芽をいかに摘み取らずにすむように、暖かい目を持って見守っていけるのは、ママとプレーパークのような場所かもしれません。

【profile】
古賀久貴(こがひさたか)さん
福岡市生まれ。玄界灘や筑後の山や川で遊んで育つ。学生時代にはデザイン論・デザイン史を専攻し、「参加のデザイン」について学び、卒業後は大阪で冒険遊び場づくりの立ち上げ、および大阪府下の遊び場のネットワークづくりに関わる。現在、子どもも大人もいきいきできる遊び場を全国に広げるNPO法人日本冒険遊び場づくり協会事務局長。

【profile】
関戸まゆみ(せきどまゆみ)さん
東京都新宿区出身。子育て中に常設の冒険遊び場「羽根木プレーパーク」と出会い、子どもと自分自身がよく遊びに行くようになり運営に関わる。地域住民として羽根木プレーパークの会会長となり、その後(福)世田谷ボランティア協会プレーパーク事業担当専門員として勤務。現在はNPO法人日本冒険遊び場づくり協会副代表。フリーランスで全国の冒険遊び場活動の支援をしている。

【access】
特定非営利活動法人「日本冒険遊び場づくり協会」
東京都世田谷区野沢3-14-22
のざわテットーひろば
http://www.ipa-japan.org/asobiba/

首都圏プレーパーク・リスト

●プレーパークたいとうの会
東京都台東区内の公園

北区で子どもの遊ぶ場をつくる会
区立中央公園(東京都北区十条台1丁目)
桐ケ丘中央公園(東京都北区桐ヶ丘1丁目)

●足立にプレーパークをつくる会
区立綾南公園(東京都足立区綾瀬2丁目)

●にいじゅくプレイパークの会
にいじゅくプレイパーク(東京都葛飾区新宿5-21-2)

●わんぱく天国
わんぱく天国(東京都墨田区押上1-47-8)

●ゆきやなぎプレーパーク小松川の会
区立小松川ゆきやなぎ公園(東京都江戸川区小松川2-8)

●ひらこま・はらっぱ/こまつなエコキッズ
ひかり児童遊園(東京都江戸川区平井4-20)

●江戸川遊ぼう会/発見きち
総合レクリエーション公園内新田の森公園(東京都江戸川区西葛西8-6)

アソビバ 江東
都立猿江恩賜公園内冒険広場北側(東京都江東区毛利)

●品川冒険あそびの会
北浜こども冒険ひろば(東京都品川区北品川)

●もっと遊べる5丁目公園の会
区立中央5丁目公園(東京都大田区中央5-14-1)

●渋谷はるのおがわプレーパーク/渋谷の遊び場を考える会
区立代々木小公園北
(東京都渋谷区代々木5-68)

●せせらぎ冒険あそび場/せせらぎファンイン
渋谷区スポーツセンター内幼児広場(東京都渋谷区西原1-40-18)

世田谷プレーパーク/NPO法人プレーパークせたがや
区立世田谷公園内(東京都世田谷区池尻1-5-27)

羽根木プレーパーク/NPO法人プレーパークせたがや
区立羽根木公園内(東京都世田谷区代田4-38-52)

●のざわテット-ひろば/野沢3丁目遊び場づくりの会
(東京都世田谷区野沢3-14-22)

駒沢はらっぱプレーパーク/NPO法人プレーパークせたがや
区立駒沢緑泉公園内(東京都世田谷区駒沢3-21)

●東大和七森プレーパーク
下立野林間こども広場(東京都東大和市芋窪5丁目)

烏山プレーパーク/NPO法人プレーパークせたがや
区立北烏山もぐら公園内(東京都世田谷区北烏山8-5)

きぬたまあそび村
二子緑地ピクニック広場隣(東京都世田谷区多摩川河川敷)

四谷冒険あそびの会
区立若葉公園(東京都新宿区若葉3-4)

●どんぐり山プレーパーク/立野 冒険遊びの会
区立立野公園(東京都練馬区立野町)

のびっぱひろっぱ/杉並冒険遊びの会
柏の宮公園(東京都杉並区)

戸山公園子どもの遊び場を考える会
都立戸山公園大久保地区子どもの広場・のびのび広場(東京都新宿区大久保3丁目)

本町プレーパークの会
東京都豊島区池袋本町

●子どもの環境を良くする会
東京都練馬区

●石神井・冒険遊びの会
都立石神井公園おべんと広場(東京都練馬区)

●光が丘☆冒険遊び場KilaKilaひろっぱ
都立光が丘公園内イチョウ並木沿いの芝生広場(東京都練馬区光が丘)

●あそぼう会
都立武蔵野中央公園はらっぱ(東京都武蔵野市八幡町2丁目)

●三鷹遊び場計画
新川みどりの広場・天神山青少年広場ほか(東京都三鷹市)

●小金井にプレイパークを作る会
都立武蔵野公園内くじら山(東京都小金井市)

わんぱく夏まつり/わんぱく夏まつりの会
都立武蔵野公園内くじら山とその周辺(東京都小金井市)

●国分寺市プレイステーション/NPO法人冒険遊び場の会
国分寺市プレイステーション(東京都国分寺市西元町3-26-35)

自由遊びの会/小平プレーパーク準備委員会
市立こどもキャンプ場(東京都小平市小川町1-621)

●冒険遊び場東村山
都立東村山中央公園(東京都東村山市)

立川プレーパークを考える会
市立けやき台小学校他(東京都立川市若葉町1-31-1)

●多摩プレーパーク連絡会
東京都多摩地域の冒険遊び場活動のネットワーク

●地域にプレーパークをつくる会「どろんこの国」
市立落川交流センター(東京都日野市落川)

●三ツ又冒険遊び場たぬき山/子ども広場あそべこどもたち
三ツ又冒険遊び場たぬき山(東京都町田市成瀬)

●相原冒険遊びの会
都営武蔵岡団地内三角公園(東京都町田市相原町3190)
大地沢青少年センター(不定期)

●きつねはらっぱ冒険遊び/野津田・雑木林の会
野津田公園内(東京都町田市野津田町2035)

●やとっぱらあそびの会
谷戸せせらぎ公園(東京都西東京市谷戸町)

●東くるめ冒険遊び場づくりの会
滝山公園バーベキュー場(東京都東久留米市滝山)

●清瀬プレーパークの会
神山公園および清瀬市児童センター
(東京都清瀬市中清戸三丁目)

●冒険遊びを楽しむ会・TAMA
永山南公園(東京都多摩市永山4-7-12)

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