「寝る子は育つ」という諺。これって実は医学的にも本当だったんです。

[ チルドリン vol.06 2006年07月発行より ]

深夜に帰宅したお父さんが寝ている子どもを起こしていっしょに遊ぶなんてことはもってのほかです。

早起きして早寝する。
そんなあたりまえのことができない子どもが近ごろ増えているそうです。
元気な一日を迎えるためには、ますば十分な睡眠が必要です。
夜更かししがちな子どもたちに、お母さんがしてあげられることは何でしょうか?
子どもの睡眠について研究している「瀬川小児神経学クリニック」院長の瀬川昌也先生にお話を伺いました。

24時間営業の店があちらこちらにでき、東京の街は眠らなくなりました。夜遅くまで会社に残って仕事をすることも、昨今では珍しいことではありません。けれど も、これら環境の変化にともない、私たちにとって、とても身近なある問題が起こっています。それは夜型の生活が進み、就寝時刻が非常に遅くなり、生活者全 員が「睡眠不足」になっているということです。さらに、このような親の生活にあわせて、夜型になってしまっている子どもが増えているということです。ある 調査では「21時に寝ていない子どもが半数を占めるのは、世界中で日本だけだった」という結果が出たと言われているほど。この驚くような現状について、子どもの睡眠について詳しい「瀬川小児神経学クリニック院長」の瀬川昌也先生にお話を伺いました。

「子どもの就寝時間は、お母さんの就寝時間と密接な関係があることがわかっています。本来、睡眠というのは日が昇るのとともに起き、日が沈むのとともに眠 るのが理想的なスタイルです。つまり、お母さんの生活がお日様のリズムに一致していないと、子どもは十分な睡眠をとる方法を覚えることができないのです。 かといって、子どもの年齢や個人差によって目安となる睡眠時間は異なるので、何時に眠らなければいけない、という医学的な基準があるわけでもありません。 子どもに応じて、決まった時間に眠り、決まった時間に起きるという睡眠のリズムをもつことが、一番大切なことだといえます」

人間は寝ているあいだ、浅い眠りの「レム睡眠」と深い眠りの「ノンレム睡眠」を繰り返しています。ノンレム睡眠が始まってレム睡眠が終わるまでをひとサイク ルと数え、完成した大人の脳であればひとサイクルは1時間半と決まっているそうです。では、子どもの場合はどうでしょうか。生まれたばかりの赤ちゃんは短 い眠りと覚醒を繰り返す睡眠スタイルを一般的にとりますが、生後から昼夜の明暗の区別に一致した生活をすることにより、4ヶ月までに昼夜の区別に一致した 生活リズムが完成します。1歳6ヶ月頃には昼寝が午後1回となり、2歳~幼稚園を卒園する頃までに、昼間はずっと起き、夜は眠るという大人型の睡眠サイク ルが完成します。光が出れば朝であるとか、暗くなったら夜だとか、カラダで感じる明暗で昼夜を判断していくのです。同時に、お母さんは昼間に十分に刺激を 与え、起こすようにすることも大切です。

「生後4ヶ月までのリズムが形成されなかったり、また、1歳6ヶ月までに昼寝が午後1回にならないと、情緒・精神機能、知能の発達に影響が出ることがあります。2歳以後のリズムができていないと、睡眠覚醒のリズムと体温のリズムの間にズレが生じるのです」と瀬川先生。ちなみに体温は、明け方3時~4時頃、最も低く、夕方5時頃、最も高くなるのだそうです。

「睡眠覚醒リズムと体温リズムのバランスがとれている子は、朝起きたときに体温があがって、カラダが元気になるのが普通です。けれども、睡眠覚醒リズムが ズレてしまった子どもというのは、朝起きるのもだるく、元気が出ないために学校へ行きたくないと感じるようになります。自律神経失調になったり、環境順応するのが難しくなる子もいます」

それほどまでに、幼少期に身につける睡眠覚醒リズムは大切で、子どもたちの成長に深く関係しています。質の高い睡眠を得るためには、昼間にどれだけ活発に動いていたかということが大切になってくるのだそうです。カラダをいっぱい使って動いた子どもは、夜もぐっすり眠れ、翌日の朝の気持ちよい目覚めにつながります。まずは昼間活動することを覚えさせることが、よい睡眠への第一歩です。

また瀬川先生は、食事を毎日決まった時間に食べる癖をつけることも積極的にお母さんたちに勧めています。
「食事というのは、離乳食の頃から覚醒の刺激になります。食事のサイクルと睡眠のサイクルはそれぞれ独立しているので、夜間に食事を与えると、腹時計は昼だと認識してしまうんです。特に、子どもにきちんと食べさせて欲しいのが朝ごはんです。朝にきちんと食事させ、食事のリズムと睡眠覚醒のリズムを一致させることが健康とともに精神活動にも重要ですよ」

さあ、お母さん。もう一度子どもたちとの生活を見直してみましょう。夏休みだからって、夜間に外食に出かけたり、夜遅くまでテレビを観たりゲームをしたりしていませんか? 保育園の帰り道に蛍光灯のまぶしいスーパーやコンビニに寄ったり、お父さんが遅く帰ってきたからといって無理に電気をつけて、赤ちゃんを起こしたりしていないでしょうか?

子どものカラダはお父さんやお母さんが思っている以上にデリケートです。昼夜関係なく光を敏感に感じとるたびに、いまが昼なのか夜なのか脳は混乱を起こして しまうのです。夜は早く電気を消して、静かに眠らせてあげることが、明日の健康に繋がります。とても難しいことですが、できるかぎり家族全員で、早寝早起きを心がけるようにしましょうね。

【profile】
瀬川昌也(せがわ・まさや)先生
瀬川小児神経学クリニック院長。1902年に曾祖父が東京・御茶ノ水の地に開設した瀬川小児病院を、1973年神経専門の診療所「瀬川小児神経科クリニック」として開院。子どもの睡眠障害や睡眠発達障害のほかに、自閉症や学習障害など神経・精神疾患全般に取り組んでいる。

【access】
瀬川小児神経学クリニック
東京都千代田区神田駿河台2-8瀬川ビル2F
03-3294-0372
9:00~17:00(月曜日から金曜日 9:00~12:30(土曜日) 日曜祝日休診
www.segawa-clinic.jp

[ チルドリン vol.06 2006年07月発行より ]