お母さんの方がちょっとナーバスになりすぎていませんか?

[ チルドリン vol.05 2006年04月発行より ]

不安に立ち向かうエネルギーを
子どもに与えることを考えましょう。

新しい季節と新しい友達。
春は新しい環境のなかで生活が始まり、子どもたちには一度に変化が降りかかる季節です。
大人にとっても、はじめは好奇心や期待でワクワクしていた心が、上手に適応できないとストレスになってしまいます。
だとしたら、それは子どもたちも同じです。
学校生活も安定してきたところに、初めてのクラス替えや、慣れ親しんだ担任の先生も変わり、
勉強への取り組みも明らかに難しくなってくる…..。
不安を抱える子どもに、ママはどう接するべきなのでしょうか?
むろん、正しい答えはありません。
子どもの発達心理学を研究する藤崎眞知代先生に、そのポイントを伺いました。

新しい生活が始まると、確かにナーバスになる子どももいるかもしれません。ネガティブになった心を親子でどう受け止めて、乗り越えるかということが大切で す。新しい生活は、友達関係が広がり、先生が変わることで可能性が広がり、新しい関係が築ける機会とも考えられるからです。例えば、最初の担任の先生とウ マが合わない場合もあると思います。先生によっては、大人しくて勉強のできる子がよい子だと考えている人もいれば、ちょっとやんちゃで積極的な子が伸び伸 びしていてよいと捉える先生もいます。生徒を平等に見るという倫理は教師という職業意識としてもっていなければならないと思いますが、しかし先生が変わる ということは、子どもの異なった側面を認めてくれる、引き出してくれる先生と出会えるチャンスとも言えます。また、元の友達と仲良くしながら、新しい友達 ができます。子どもはどんどん親から離れて、自分の世界を広げていくことで、健やかに育っていきます。そういう意味で、クラス替えは子どもの心が成長する 大きなチャンスなのです。

子どもの交友関係をどこまで把握するかというのは難しい問題ではあります。子どもが小さければ小さいほど、「あの子と遊んだ方がいい」とか、友達関係にま で口を出しがちですよね。でも、小学校に入ったら、子どもが生活のなかで「この子といると楽しい」「この子は合わない」と感じて、子どもが自ら友達を選ん でいくのが大切です。そのなかで、先生や友達のどこを好ましく思うのか、どこを嫌だと思うのかを考えさせ、対話をするとよいと思います。それと同時に、 「相手はどう思っているか」ということも考えられるようなサポートをしてあげられたらよいと思います。自分の気持ちを表現することも大切なんですけど、自 分のことばかりで、まわりが見えなくならないように支えてあげましょう。お母さんは自分の子どものことばかりに関心がいきがちです。例えば、自分の子ども がいじめられたとしても、相手の子どもの気持ちも聞いてあげる必要があります。どういう原因でそうなったのかを知ろうとする習慣をもちつづけてください。

また、親が把握する中身と子どもに任せる部分がごっちゃになっていると思います。過剰に心配をして、子どもの遊びの世界にまで立ち入ってしまうケースがある からです。子どもが何をしているか知りたいという欲求を抑えて、見守らなくてはいけないことも多いはずです。遊びのなかで、取っ組み合いになって、ちょっ としたケガをするかもしれないけれど、そうやって揉まれ、兄弟でもない、対等な友達だからこそ見せられる感情の高ぶりと怒り、そしてそうした感情を抑えた ときに、単なる友達から、自分にとってどういう意味のある友達かということを自ら導き出していくことがあります。ですから「子どもの目から見た友達関係を 見守る」ということが、実は大事なのです。ほんとに問題が起きたときに手を差し伸べるだけで大丈夫です。

最近は「すべてを把握していないと不安」というお母さんが増えています。しかし、やはり「子どもの世界」というものはあるのです。それは絶対に親が入れな い、子どもだけの秘密の世界なのです。それを認めないと、自立心の芽生えをさまたげて、きちんとした思春期を迎えられなくなってしまいます。

日々の暮らしのなかで子どもの興味や関心を拾ってあげて、それを伸ばしてあげれば、その子のなかに揺るぎない核ができます。それは必ずや子どもの自信にな ります。それは子どもひとりひとり異なるのですから、お母さんがそれを掴んでおいてあげて支えてあげてください。そうすることで、これから先、クラス替え だけじゃなく、もっと大きな変化や不安にも対応できる力が育っていくはずです。不安そうにしているから、直接その不安について根掘り葉掘り触れるのではな くて、見守るのも子育てです。

クラス替えなどの環境の変化は、日常生活での些細な一つの出来事に過ぎないんだと軽く感じさせてあげましょう。家庭ではやりたかったことをやらせてみた り、ゆったりと過ごせるような生活を考えたり、気分転換をさせてあげることで、不安に立ち向かうエネルギーを子どもに与えることができます。

【profile】
藤崎眞知代(ふじさきみちよ)先生
明治学院大学心理学部教授。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科人間発達学専攻単位取得退学。家政学修士。著書に「子どもの発達心理学」「保育のための発達心理学」(いずれも新曜社、共著)「育児・保育現場での発達とその支援」(ミネルヴァ書房、編著)。日本発達心理学会常任理事、「臨床発達心理士」認定運営機構認定委員など。主な研究テーマは、子どもの自己の発達とその影響因としての家庭生活・学校生活との関連。保育カンファレンスを通した保育者の成長・子育て支援と親子の発達。

[ チルドリン vol.05 2006年04月発行より ]