子どもたちが教室でアーティストと出会うという幸福

[ チルドリン vol.04 2006年3月発行より ]

子どもたちの通う学校に
アーティストを呼んでみませんか?

想像してみてください。
子どもたちとアーティストとがともに楽しく遊べる授業があったとしたら
なんだかとても楽しそうじゃありませんか?
そして子どもたちはその授業で、アーティストの自由な発想や表現を知ることで、自由な心をキープすることができるのではないでしょうか?
「エイジアス(ASIAS)」と「アクション(ACTION!)」というこのふたつのプログラムによって、「アーティストと子どもたち」を結びつけるNPO「芸術家と子どもたち」の活動を取材しました。

子どものころ、楽しみだった授業はなんですか? 体育のドッチボール、図工の時間に動物園に行ってスケッチしたこと、音楽の授業で演奏会の練習をしたこと。 思い出してみると、子どもの頃のちょっとイレギュラーな体験って、どこかに深く記憶に残っていたりするものですよね。では、子どもの頃に、ホンモノの芸術家と学校の教室や地元のオルタナティブな場所で出会ったらどうなるでしょう? 普段の生活ではあまりないことですが、きっと子どもたちにとっても、芸術家にとっても、楽しくも不思議な体験として記憶に残るのではないでしょうか? 「芸術家と子どもたちとの幸福な出会い」をプロモートする、そんな一風変わった活動をしている「芸術家と子どもたち」というNPO団体があります。

「芸術家と子どもたち」は、西新宿にあるのパークタワーホールで、ダンスなどの舞台芸術などの企画を担当していた代表の堤康彦さんが「子どもとアーティストを会わせたら、おもしろいんじゃないのかな?」というシンプルな思いつきでスタートした活動団体です。活動そのものは2000年の7月に始まり、翌年の7月にNPO法人として発足しました。現在の活動拠点は、西巣鴨にある「にしすがも創造舎」で、廃校になった朝日中学校を豊島区との協働事業として利用しています。

堤さんが最初に取り組んだのは、「エイジアス(ASIAS)」というアーティストが小学校へ出かけて、先生と協力しながらワークショップ型の授業を実施する という活動です。この活動はあくまで、学校の先生からの要請が起点となって、先生から「こういうことがやりたい」という相談を受けてから、スタッフがどの ようなアーティストが適当かを検討します。「芸術家と子どもたち」が、「総合的な学習の時間」を利用して授業をお願いするのは、既存の価値にとらわれない コンテポラリーアーティストたち。普段からヒアリングを重ねて、各アーティストたちの個性を把握します。子どもたちは、ダンサーや振付家、音楽家、映像作 家など自由な発想をもつアーティストに接することで、「こんなに自由に生きている人もいるんだ」と実感することになります。

他人と違うということが決して恥ずかしいものではなく、むしろ誇れるものだということを、アーティストという存在を通して感じ取る子もいるでしょう。ま た、アーティスト自身も子どもたちのまだ何ものにも縛られていない発想に、何かを得るのではないでしょうか? つまり、どちらかがどちらかに何かを与える 一方向の関係ではなく、双方向の関係性を築ことが目的になります。

スタッフの宮浦宜子さんに具体的な効果をうかがうと、「実際に、すぐ何かが変わるということ難しいとは思います。ただ、まちがいなく子どもたちにとって、 体験の貯金になります。突然生き生きし出す子もいれば、泣き出す子もいる。普段は目立たない子や、からかわれている子が、アーティストが声をかけること で、友達から一目置かれることもある。そんな場面を目の当たりにするたびに、その子のなかに『自分は自分で良いんだ』という意識がどこかに芽生えてくれた んじゃないかなと期待しています。隣りの子の自分とは異なる表現を見て、ただ単に、『人と自分は違うんだ』という違いを認識するだけでも、子どもたちにとっては大きな経験になっていると信じています」

授業の形態は、学校ごとに決めるので、一概にどんな授業になるかは言えませんが、学校の先生からは「表現というレベルではなく、動き自体が堅くなってい る」という相談が多く寄せられると言います。そこで、音楽と体育と図工をミックスしたような、振付家による「身体を使った表現」のワークショップが比較的 人気のようです。

また「エイジアス」とは別に、2004年の8月からスタートしたのが「アクション(ACTION!)」です。こちらは、東京都豊島区西巣鴨を拠点にした地域 住民参加型の活動です。アートを通して、普段は出会う機会のない人たちが、出会い、交流する場を作ることを目的として、アーティストが主体となって、コ ミュニティの再生を目指します。これまでに「子どものいるまちかどシリーズ」としてアサヒビールのサポートを受けて岩井成昭やさとうりささんと活動をとも にしてきました。そして地域の人たちといっしょに、にしすがも創造舎の敷地の一角を利用して、花や樹木、野菜などを育てながら、植物を通した交流の場を作 る「グリグリ・プロジェクト」なども行なっています。またときには「料理が得意な女の子が、『カフェをやりたい!』と言って、自分でウエイトレスを探し て、1日カフェを開いたこともありますよ」と宮浦さん。「アクション!」は、地域の老若男女がふれ合える貴重なコミュニケーションの場といえそうです。

「エイジアス」も「アクション」どちらも、子どもたちにとって大きな経験をもたらす活動です。子どもの頃からアートを身近に感じて、のびのびとした感性を持ってほしい。そんな願いが、「芸術家と子どもたち」を動かしています。

【profile】
宮浦宜子(みやうら・たかこ)さん
札幌市出身。早稲田大学教育学部卒業後、情報関連の企業に就職。経営企画を経て、人材紹介サービスのベンチャー企業に転職。その後、豊島区西巣鴨にある廃校を拠点に活動するNPO法人「芸術家と子どもたち」が「ACTION !」という地域住民参加型のプロジェクトをスタートするときに参加。「もともと好きだったアートと、大学時代に学んだことがようやくつながりました(笑)」。企業も行政もできないことをやろうと、次回プロジェクトを画策中。

【contact】
NPO法人「芸術家と子どもたち」
東京都豊島区西巣鴨4-9-1
にしすがも創造舎(旧朝日中学校)
03-5961-5737
http://www.children-art.net/

[ チルドリン vol.04 2006年3月発行より ]